COLUMNコラム
財務デューデリジェンスの実務
財務デューデリジェンスの実務 その取引はEBITDA調整必要?不要?
2026.04.06

M&Aのバリュエーション(企業価値評価)において、企業の真の稼ぐ力を示す「正常化EBITDA」の算出は極めて重要です。実際の財務DDの現場で遭遇する10のケースを題材に、EBITDA調整(プロフォーマ調整)の要否をクイズ形式で解説します。
Q1. 消費税の会計処理について、税込処理を採用している。
A. 調整必要(◎)
解説:通常税抜処理で表示されることから、売上高については「売上高×100/110」等で税抜処理に調整します。ただし、税込処理における消費税額はSGA(販管費)の租税公課等に含まれて利益を押し下げていると考えられるため、EBITDAの段階での調整は不要となります。
Q2. 買収後の新体制において、役員に支払われる役員報酬総額が変動する予定である。
A. 調整することが多い(〇)
解説:変動後の役員報酬に基づくプロフォーマ調整が必要です。役員報酬が変動することによる「役員退職慰労引当金繰入額」や「法定福利費」への影響まで網羅的に考慮する必要があります。
Q3. 本社移転を予定しており、賃料は従来の1.5倍になる予定である。また移転先の賃貸契約に当初6カ月分はフリーレントとする条項が含まれている。
A. 調整することが多い(○)
解説:賃料の増加は事業規模の拡大に応じたオーガニックな成長と捉えた場合は必ずしも調整する必要はないですが、いずれにせよプロジェクションには織り込む必要が有るため、モデラーに対して注意喚起するという意味でも調整するという判断はあり得ます。フリーレントの恩恵は一時的なものであるため、移転先の定額家賃に基づいた費用のプロフォーマ調整を検討します。但し、キャッシュアウトが抑制されることになるので、その分はプロジェクションに反映させるか、別途株式価値評価に反映させるといった対応が必要になります。
Q4. 対象会社は継続的に助成金を受け取っており、営業外収益に計上している。
A. 調整しないことが多い(△)
解説:将来も継続的に発生する助成金収入はEBITDAに加算調整します。ただし、助成金は有期のものがほとんどであるため、受給要件などの内容を精査した上で調整要否を慎重に検討する必要があります。
Q5. 毎期数店舗の開店・閉店を繰り返すビジネスモデルにおいて、店舗閉店にかかる費用(固定資産除却損や解雇費用)を特別損失に計上している。
A. 調整必要(〇)
解説:毎期経常的に店舗の移転やスクラップ&ビルドが行われている場合、それらの費用は「経常的に発生する営業費用」とみなし、EBITDAから減算調整する必要があります。関連する引当金が適切に計上されているかの確認も必須です。
Q6. 本件(M&A)実施後に、これまで外注していたコールセンター業務の内製化を行う予定である。
A. 調整必要(〇)
解説:コールセンターの外注費から、内製化した場合の追加コスト(人件費やシステム費等)を控除した部分についてEBITDA調整を行います。内製化にあたって初期投資(一時コスト)がかかる場合には、当該コストをネットデットに含めることを検討します。
Q7. 本件(M&A)実施後に、資本金を1億円以下まで減資する予定である。
A. 調整必要(〇)
解説:資本金が1億円以下になることで、税務上「外形標準課税」の対象外となります。したがって、今後発生しなくなる外形標準課税(付加価値割・資本割など)の金額を算定し、プロフォーマ調整を行います。
Q8. 台風等の自然災害による工場の稼働停止により、昨年の売上高が大きく減少している。
A. 調整しないことが多い(△)
解説:稼働停止期間の情報を入手し、当該期間に逸失した売上・EBITDAの金額を「異常値」として加算調整することを検討します。ただし、影響額算定の仮定に恣意性の介入余地があり、実施要否や算定根拠についてはクライアントと相談の上、慎重な判断が求められます。 なお、バイサイドDDの場合は積極的に調整を行い、売上高・EBITDAを押し上げる必要はありませんが、セルサイドDDの場合は正常な収益力を買手候補者に開示したいインセンティブがありますので、調整することが多いです。また、運転資本への影響も検討する必要が有ります。
Q9. リース会計を適用した場合ファイナンスリースとしてオンバランスすべきリース取引について、リース料を毎期費用処理している。
A. 調整しないことが多い(△)
解説:将来の事業計画においてリース会計を適用し「オンバランス計上」する前提であれば、過去と将来の目線を合わせるため(A to Aにするため)に調整が必要です。引き続き費用処理前提で進めるのであれば、調整は不要となります。
Q10. 対象会社は持分法適用会社を有しており、重要な持分法に係る投資損益が計上されている。
A. 持分法適用会社の評価方法による(△)
解説:持分法に係る投資損益の調整可否は、持分法適用会社をどのようにバリュエーションに反映させるかによります。仮にスタンドアロンで評価してEVブリッジにおいて加算させる場合には、EBITDAに反映しない整理となります。一方、当該持分法投資先の事業を本業と一体として評価し、プロジェクションにおいて事業の一部としてFCFに織り込む場合にはEBITDA調整を行います。但し、持分法適用会社を財務諸表に取り込むのはあくまでPLの純損益の持分割合のみであり、BSは連結に取り込まれません。運転資本の変動やCapexはFCFに反映されないことになるため、PLだけ取り込む事が妥当なのかを検討する必要があります。また、マルチプル法においては類似企業の倍率算定方法との整合を取る必要が有ります。