Valuationの実務

財務DDで滞留資産が検出された場合のバリュエーションの考え方

2026.04.14

財務デューデリジェンスにおいて、滞留資産(回収懸念債権や滞留在庫)が発見された場合、バリュエーションモデルへの反映方法は重要な論点となります。

「資産価値がないのだから、単純に純資産から引けばよい」というのは、純資産法でのみ通用する考え方です。将来キャッシュフローを評価するDCF法や、正常収益力を評価するマルチプル法においては、無邪気なB/S調整が「リスクの二重控除」という致命的なミスを引き起こす可能性が有ります。判断にあたっては、一過性あるいは構造的・経常的な性質のものか、既にBS上引当金が適切に計上されているか否かで象限を分けて考える必要が有ります。以下はそれを整理したマトリックスになります。

滞留発生 要因引当金
計上状況
DCF法に基づく 運転資本調整DCF法に基づく その他調整マルチプル法
一過性 ・イレギュラー性適切運転資本正常化調整(一過性要因として除外調整)を実施後の回転期間に基づき将来の運転資本に係るFCFを算定調整不要滞留資産に係る費用(繰入額)は非経常的費用としてEBITDAを加算調整
不足本来有るべき引当金を追加計上後、運転資本正常化調整(一過性要因として除外調整)を実施後の回転期間に基づき将来の運転資本に係るFCFを算定滞留資産の回収不能額(要引当額)を株式価値から減額滞留資産の回収不能額を
株式価値から減額
構造的・経常的適切資産と引当金それぞれの回転期間に基づき将来の運転資本を算定調整不要調整不要(PLで費用として計上済)
不足運転資本正常化調整(不足引当金を追加計上)を実施後の回転期間に基づき将来の運転資本に係るFCFを算定滞留資産の回収不能額(要引当額)を株式価値から減額。PL計画上の引当金繰入率は正常化調整後の繰入率による。滞留資産に係る費用(繰入額)の計上不足としてEBITDAを減額調整

 DCF法における滞留資産の調整は、その損失を、B/S(現在)で落とすのか、P/L(将来)で落とすのかを明確に分ける必要が有ります。また将来の運転資本水準は滞留資産を除外(あるいは適切な引当金を計上)した状態で見積もるべきです。
 マルチプル法において、上場している類似企業は、適正な引当を行っている前提であれば、比較対象である対象会社の利益(EBITDA等)も、「本来計上すべき引当費用」を差し引いた正しい姿へ下方修正しなければなりません。

財務デューデリジェンス担当者は上記を理解し、バリュエーションへの落とし所を想像しながら、分析・レポーティングすることが必要になります。

  LIST  

CONTACT

M&A再編・再生のご相談はもちろん、
その他のご相談も
お気軽にお問い合わせ下さい。