COLUMNコラム
財務デューデリジェンスの実務
①調整後EBITDA算出における調整可否の実務上の判断
2026.01.06
1.財務デューデリジェンスにおける「調整後EBITDA」を算出する意義
まず調整後EBITDA算出の意義と算出方法について簡潔にまとめます。M&Aや事業承継の検討において、株式価値評価の基礎となる指標の一つ が EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益) です。しかし、対象会社の財務諸表に記載されているEBITDAをそのまま評価に用いることは、必ずしも適切とは限りません。そこで財務デューデリジェンス(財務DD)では、調整後EBITDA を算出し、対象事業の「実力としての収益力」を明確化します。
調整後EBITDAの最大の目的は、一時的・例外的な要因を排除し、将来にわたって継続する収益力を把握することにあります。具体的には、以下のような点を明らかにします。
・オーナー経営特有の費用や報酬水準が、実態収益を歪めていないか
・一過性損益(補助金、訴訟関連費用、災害損失など)が含まれていないか
・買収後には発生しない、または水準が変わるコストが混在していないか
これらを調整しないままEBITDAを用いると、企業価値評価の過大・過小評価や、取引価格交渉のミスマッチにつながるリスクがあります。
調整後EBITDAは、売り手・買い手双方が共通の土俵で事業価値を議論するための基準指標といえます。
2.調整後EBITDAの算定概要
調整後EBITDAは一般的に以下の順序で算出されます。
①調整前EBITDAの算出
損益計算書を基に、営業利益に減価償却費・のれん償却費を加算し、調整前EBITDAを算出します。
②正常化調整(ノーマライゼーション)
損益計算書の営業利益に含まれる一過性あるいは非経常的な損益項目を排除します。主な例は以下の通りです。
・一過性損益の除外
・私的費用の除外
・会計処理の誤りあるいは期間帰属のズレを正した場合の損益影響の反映
③プロフォーマ調整
買収後に発生しない費用や、構造的に変化する見込みのコストを調整します。主な例は以下の通りです。
・売却あるいは撤退・終了が決まっている事業・契約
・退任役員に係る役員報酬
・取引先との重要な契約条件の変更
・為替影響
④調整後EBITDAの算出
①~③を反映した調整後EBITDAを算出し、対象事業の実態収益力を算出します。
3.正常化調整のポイントと調整可否
正常化調整すべきか否かの判断軸は以下の4点になります。
① 継続性(Recurring)
事業活動を行うにあたって継続的に生じる費用ではなく、一過性と認められる場合は正常化調整の対象となります。例えばコンサルティングフィーの調整可否は頻出項目ですが、業務内容が明確かつスポット的であり、一度しか発生していない費用は一時的費用とみなせるかもしれません。一方、コンサル業務は継続的(例えば毎年セールスの指導・育成を担っている等)であり、毎期費用が発生しているようなケースでは原則認められません。それは事業運営に組み込まれているエッセンシャルな費用として見られる可能性が高いためです。
また、訴訟費用や和解金は通常の事業会社において継続的に発生することはまれですが、中にはそれらのコストが当然に発生するビジネスモデルになっている場合があります(例えばフランチャイザーとしてオーナーと訴訟になるケースが度々発生する等。週刊誌業も訴訟の発生が前提になっているモデルですよね)。その場合は、経常的な費用として扱われます。このような費用は営業外や特別損益項目に計上されている事が多いですが、その場合はEBITDAに反映させる調整が必要になります。
② 事業関連性(Core business)
例えば私的交際費など、本業とは関係のない取引から発生した費用などは正常化調整の対象となります。なお、株式価値評価のベースとなる事業計画において同種の費用は発生しない(発生させない)という前提で作成されていることが必要です。
③ 市場水準との乖離(Arm’s length)
第三者間取引と比較して合理的な水準ではない価格で取引を行っている場合には、市場水準に合わせた形での調整が必要になります。例えば関連当事者取引が第三者取引価格とかけ離れた相場で取引を行っていたりするケースです。なお、その調整額の算定においては実務上、重要性に応じてどこまで精緻に実施するかを検討する必要が有ります。該当取引が対象会社において量的に重要な取引となっており、実態のEBITDA水準に多大な影響を与えうる場合は第三者取引価格として定量的な分析とそのエビデンスが必要になります。一方そこまで重要とは言えない場合には、対象会社、もしくは買手が同業種であれば買手側に対するヒアリング、過去の類似例等から一定の仮定を置いて算出することも考えられます。
④ 会計処理の妥当性(Accounting method)
DDの過程で検出された会計処理の誤りについては、一般に公正妥当と認められりる会計処理を行った場合との差分を調整することを検討する必要が有ります。事例として多いのは、不適切な収益認識基準に基づく売上計上、費用の期間帰属のズレ、本来BSに反映すべき引当金の計上漏れなどです。
実務上問題になることが多いのは、本来あるべき会計処理に基づいた取引残高を算出できないケースです。特に収益認識基準の修正において、計上タイミングの変更をする場合は過去から遡って修正しなければならず、また修正に必要な情報の開示を要請する必要が有り、財務アドバイザー及び対象会社側双方にとって過度な負担となります。
例えば建設業を営む対象会社が工事完成基準で収益認識を行っているが、工事進行基準(旧会計基準の名称)で計上した場合に、PLの見え方がどのように変わるか?という依頼をされたケースが有ります。工事進行基準には見積総工事原価の算定(及びタイムリーな見直し)および実際発生原価の集計・管理が必須になりますが、それを行っていない場合はそもそも算定が不可能になります。その時は前述の情報が開示されなかったため、重要なプロジェクトに絞り、プロジェクト期間中の大まかな進捗率のカーブに沿って売上・原価を期間按分し、あるべき金額を算出しました。
4.買手側の視点と売手側の視点の違い
デューデリジェンス担当者として正常化調整すべきか否かの判断は、バイサイドDDかセルサイドDDかによって異なるケースがあります。セルサイドDDの場合は可能な限りEBITDAを押し上げてバリュエーションを高く出すことに主眼を置いているため、特に非経常的費用等を幅広に調整することが有ります(バイサイドはそれに対して批判的な目線で検討します)。一方、バイサイドDDではクライアントが調整後EBITDA水準を厳しくみたい(EBITDAを加算する調整は可能な限り保守的に見て、バリュエーションを抑えたい)というスタンスの場合があります。そのケースにおいては明らかかつ重要な非経常的費用以外は調整しない(その様なトランザクションをわざわざ探しに行かない)こともあります。
このように調整可否は財務アドバイザーの判断が入るものであるため、調整するしないに関わらず、その決定に至った理論的根拠を説明する必要が有ります。多くの財務DDレポートにおいては、調整した項目の内容と理由を説明することは一般的ですが、調整不要と判断した項目を説明しているレポートは稀です。大手、例えばBIG4の場合はリスクマネジメントが徹底されていることもあり余計なことは書かない様にしていますが、私の場合は調整不要と判断したプロセスを事細かに記載する場合もあります。
次回
次回はEBITDA調整の内、プロフォーマ調整について実務的なポイントを解説します。