COLUMNコラム
財務デューデリジェンスの実務
カーブアウトを伴うM&Aのデューデリジェンスにおける実務上のポイント
2026.03.17

1.カーブアウト案件特有の難しさ
カーブアウト案件には2種類あり、①連結グループから子会社を切り離す場合と②一つの法人格から特定の事業の切り出しを伴う場合に分類されます。この内、カーブアウトを伴うM&A取引におけるデューデリジェンスで難易度が高いのは②です。②の場合、一法人から対象事業を切り出すため、事業間で共有しているモノ、ヒト、プロセス、契約、システム等に不足が生じる可能性が有ります。これをスタンドアロンイシューもしくはセパレーションイシューなどと呼びます。本コラムでは、カーブアウトM&Aにおいて買い手が留意すべき主要リスクと、買い手の属性による対応の違いを解説します。
2.スタンドアロンイシューの例
カーブアウト案件では、スタンドアロンイシューによりカーブアウト後に事業が単独で継続できるかどうか、またクロージング前後で収益力・BSの構造が変化しないかが最大の論点となります。以下はスタンドアロンイシューの例です。
(1)譲受経営資源の不足
工場、システム、コーポレート人員など、他事業と共有している経営資源が引き継がれないリスクがあります 。DDにおいては、対象事業のみに帰属する資源と共有資源を把握し、自社での代替や第三者からの調達、または売り手からの過渡的な提供(TSA:移行期間サービス契約)を検討する必要があります。
(2)シナジーの喪失
対象事業がグループから外れることで、原材料のボリュームディスカウント、有利な資金調達金利、健康保険料率などが喪失し、価値毀損を招くリスクに留意が必要です。
(3)取引条件の不利変更
グループ内の調達先や販売先を喪失したり、有利な取引条件が適用されなくなったりするリスクがあります。これらの影響額は、事業価値から減額するなどの対応が求められます。
3.財務情報の実態との乖離(バリュエーションの困難性)
カーブアウト対象事業の財務諸表は、通常その事業単体で監査の対象となっていないため、精度が高くないケースが存在します
(1)カーブアウトFS作成プロセスの理解と検証
売手が作成したカーブアウトFSがどのようなデータに基づき、どのような方法で作成されているかを理解することが極めて重要になります。また、その理解はデューデリジェンスの初動で実施する必要が有ります。何故なら、対象事業の実態を表していないFSに基づきデューデリジェンスを行ったとしても意味は無いですし、仮に調査期間の終盤でようやく財務数値が固まったとしても「時すでに遅し」となるリスクがあるからです。 確認ポイントとしては、売掛金や買掛金の事業への紐付けが適切に行われているか、カーブアウト対象資産・負債の確認、本社費用の配賦方法、対象事業に関連しない損益が含まれていないか、バックデータが監査済み財務諸表と整合しているか等を検証します
(2)事業計画の検証
カーブアウトプラン(体制構築の費用など)が、将来の事業計画に適切に落とし込まれているかを、過去のプロフォーマ数値との連続性を踏まえて確認することが重要です。
4.買い手属性(事業会社 vs PEファンド)による対応とPLへの影響の違い
スタンドアロンイシューに対する手当ての方法や、買収後の事業計画(PL)への影響は、買い手が「ストラテジックバイヤー(事業会社)」か「ファイナンシャルバイヤー(PEファンド等)」かによって根本的に異なります。
(1)ストラテジックバイヤー(事業会社)の場合
買い手自身が既に人事、経理、ITシステムなどのリソースを有しています。そのため、切り離された事業を自社のインフラに統合(プラグイン)することで、不足機能を補完できます。売り手へのTSA依存期間を短く設定できる傾向にあり、重複部門の統廃合による「コストシナジー」が見込めるため、買収後のPLは利益率が改善しやすい構造になります。
(2)ファイナンシャルバイヤー(PEファンド等)の場合
ファンド自身は、(アンカーディールに対するボルトオン投資で無ければ)基本的に事業運営インフラを持たないため、対象事業が「自立」するための機能をゼロから構築する必要があります。新たな経営陣の招聘、独自システムの導入、コーポレート部門の立ち上げが完了するまでの間、売り手に対して長期かつ広範なTSAを依存せざるを得ません。買収後の事業計画(PL)には、これら自立に向けた「スタンドアロンコスト(追加的なシステム費用や人件費等)」が重くのしかかるため、これを精緻に見積もりキャッシュフローから控除してバリュエーションに反映させる必要があります。
5.買収対価の過不足リスク
価値評価の基準日と実際のクロージング時点で、引き継ぐキャッシュ・運転資本などの資産残高が変動し、買収対価の過不足が生じるリスクがあります。このリスクに対処するため、調査基準日とクロージング時点の運転資本等の差額を買収価格に加減する「価格調整」の仕組みを設けることを検討する必要が有ります。そのため、DDの段階から、運転資本項目の内容や季節性を分析しておくことが肝要です。
6. 実務上の留意点とまとめ
カーブアウト案件は「初動が全て」です。売り手と買い手間で「カーブアウトBS」や「プロフォーマBS」といった専門用語の定義を明確にし、認識のズレを防ぐことが不可欠です。 シタデルファイナンシャルアドバイザリーでは、買い手の属性やディールの目的に応じた、カーブアウト案件特有の複雑な財務DD・バリュエーションにおいて豊富な実績を有しております。複雑なディールにおける適正な価値評価・リスク分析は、ぜひ弊社にご相談ください。